金澤康子 著
『ダウン症の書家 金澤翔子の一人暮らし』
(かまくら春秋社/1,540円+税)
この本は、金澤翔子さんが30歳で一人暮らしを始めたことについて、お母様の金澤康子さんがつづったもの。興味津津で著書を読ませていただき、まず驚いたのは、お母様の決断だ。翔子さんは確かに書家として立派な仕事をされているが、知的障がいがあることはまぎれもない事実であり、自立したとしても様々な支援が必要なのではないか?と心配だった。
しかし、翔子さんは「生きる達人」なのだ。生活を満喫し、食事は一人で作り、一人で食べている。料理も上手だというから脱帽だ。実家には特に用事がないと帰らないという。実家にも近い幼い頃からよく知っている「久が原商店街」の中の美しい部屋の主になった翔子さんは、とても素敵に暮らしている。銀行のATMを使うことをはじめ、社会に出たことで得た多くの知識を発展させるパワーを持ち、困ったことが起きたら自分で解決の道を探ったりする行動力には圧倒される。
社会はそれほど甘いものではないけれど、翔子さんは地域に大勢の応援してくれる人をつくり、また、柔らかい風を吹かせて地域を巻き込んでいるのはとても素敵なことだと思った。宮澤賢治の「雨ニモマケズ」のモデルのような人なのだ。本の中に「比類ない」という言葉がよく出てくるが、間違いなく慈愛に満ちた天使が翔子さんなのだ。一人暮らしを始めて、激太りしたり、嘘を覚えたり、生々しい現実も知ることができた。自由は罪か?と思いつつ、これからの翔子さんの「真の自立」に期待したい。
【JDS会員:熊谷 百合子】