三重大学への申し入れ書提出について

2月22日三重大学が2月19日に配信したニュースリリース「ダウン症候群の人の細胞から余分な21番染色体を除去 」ゲノム編集技術CRISPR-Cas9を用いた革新的な手法の開発 につきまして公益財団法人日本ダウン症協会として、申し入れ書を作成し提出いたしました。

<申し入れ書 本文> 

国立大学法人三重大学
大学院医学系研究科 修復再生病理学
講師  橋詰 令太郎 様

【申し入れ書】
拝啓 突然のお手紙失礼いたします。
貴学におかれましては、ダウン症候群の染色体治療の研究にご尽力されていることに敬意を表します。
当協会は、ダウン症のある人たちとその家族、支援者約4800名を有し、ダウン症に関する普及啓発、情報提供、調査研究、家族や支援者への相談活動等を行っている全国組織です。来る3月21日は国連が定めた「世界ダウン症の日」※であり、現在はこれに向けダウン症に関する様々な普及啓発活動も行っているところです。

さて、貴学では、2月19日に「ダウン症候群の人の細胞から余分な 21 番染色体を除去」とするニュースリリースを発表されました。
当協会では、このニュースリリースにダウン症のある人に対する否定的な表現が含まれていることについて懸念を有しております。

具体的には、まず、「約700出生に1人がダウン症の状態であり、これは国民の約0.1%がダウン症を有することに相当します。」と記載されていますが、「国民の約0.1%がダウン症を有する」との事実確認はなされていないにもかかわらず、「相当する」と表現することにより、ことさらダウン症のある子の出生がとても多く問題であるかのような印象を与える記載となっています。実際には、出生児の3.0~5.0%に先天異常がありますが、ダウン症はその先天異常の中の約13%に過ぎません。

次に、「専らダウン症の検出を目的とする出生前診断の普及にもかかわらず、寿命の延長およびその他の要因とともに、ダウン症者の総数は国際的に増加傾向にあります。」との表現は、出生前診断の普及によりダウン症のある人が減る、すなわち出生前診断によりダウン症と診断された場合には中絶されることを前提とした表現であり、読者にダウンのある子の出生はよくないことであるとの印象を与えるものとなっています。
また、「知的障害により、ほぼ全例において生涯規模の支援が必要です。」との表現も、確かにダウン症のある人には支援が必要ではあるものの、知的障害がなくても誰でも高齢になれば支援が必要であることやダウン症のある人の中にはある程度自立して生活できる人もおり、支援がそれほど必要のない期間があることも考えると、些か過剰でダウン症のある人に対して否定的な印象を与えるものと言わざるを得ません。

さらに、「成人期ダウン症の人の増加に伴い、青年期〜成人期に、アルツハイマー病や急性退行の発症リスクが高いことが分かってきました。」との記載がありますが、40歳以降の成人期にアルツハイマー型認知症が多くなるのは事実としても、若年青年に起こり得る急激退行の頻度ははっきりとはわかっておらず、高齢期の認知症ほど発症リスクが高いわけではありません。上記表現は、認知症と同じ程度に急激退行が起こるという誤解を与えるものです。

ニュースリリースの表現により傷ついたり不安を抱いたりしている、現在生活しているダウン症のある人や家族からのご意見もSNSでは多く見られ、ニュースリリースの表現についてご再考いただくとともに、今後のニュースリリース等についても、この点のご配慮をいただきたく、本書を差し上げた次第です。何卒ご配慮いただきますよう、よろしくお願いいたします。
敬具

※世界ダウン症の日2025 特設サイト https://www.jdss.or.jp/wdsd2025/

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